うんこ事件

30年以上の教員生活で思い出に残る事柄はいろいろありますが、その中でも「うんこ事件」が一番奇妙な事件でした。

 私の初任は定時制高校でした。定時制高校で8年間を過ごし、その後、全日制普通科のM高校に異動しました。そのM高校で、私が生徒指導主任という役職についていたときの出来事です。

 ある朝、女生徒が職員室に駆け込んできて「先生!廊下にうんちがあります!」と、報告に来ました。たぶん犬か猫が迷い込んでうんちをしていったんだろうぐらいに思って見に行くと、一目見て人間のうんちと分かりました。

 近くにトイレがあるのだからこれは明らかにいたずらか、学校に対する嫌がらせです。おそらく、前日の遅い時間帯に行われた犯行でしょう。だとしたら、犯人は遅くまで学校に残っている部活動の生徒だろうと予測がたちます。

 野球部かサッカー部?いやいや、いつまでも部室に残ってグダグダやっている生徒はたくさんいます。とにかく、その日の放課後から見張ることにしました。

 しかし、1カ月以上たっても犯人は現れず、放課後の見張りを止めました。すると、忘れたころに「うんこ事件」が再び起こりました。

 今度はトイレの前の手洗い場。犯行時間は、全校集会が行われた木曜日の5時間目。犯人は、全校集会に遅刻してきた生徒、全校集会の直前または途中に早退した生徒、全校集会を欠席した生徒に限られます。対象となる生徒を呼んで話を聞きましたが、犯人を特定することはできませんでした。

 3回目の「うんこ事件」は、学校説明会の当日で、場所は5階から屋上に上がる階段の踊り場でした。その場所は、教員から死角になる所で、喫煙などの問題行動が多発していたので、生徒の立ち入りは禁止になっていました。

 学校説明会は、中学生たちにM高校を受験してもらうために行う宣伝活動です。

 M高校の学校説明会では、訪れた中学生たちを屋上まで案内し、屋上から学校周辺の景色を観覧してもらう企画がありました。

 案内役の女性教員は真面目だったのでしょう。誘導中にうんちを発見しても自分の与えられた任務を遂行、「ここ汚いから気を付けて通ってね」と言って、中学生たちを屋上まで案内してしまいました。

 「ちょっと待っててね」と言って、うんちを片付けてから案内した方が良かったのに。。。

 学校説明会の前日には、大掃除をし、とくに、中学生が通るであろう場所は念入りに奇麗にします。大掃除の後は、生徒は完全下校です。

 犯人はいつ犯行に及んだのでしょう。

 不思議なことに、どの「うんこ事件」でも、発見されたうんちのそばには、おしりを拭いたであろうティッシュなどは見当たりませんでした。犯人はどうやっておしりを拭いたのでしょう。あるいは拭かなかったのか。。。

 結局、犯人を見つけることはできず、事件当時の3年生が卒業してから、「うんこ事件」は起きなくなりました。

 そのM高校では、盗難、喫煙、暴力、器物破損、バイク乗車、カンニング、対教師暴言・暴力などの問題行動が毎日のように起こっていて、「うんこ事件」だけを扱うことはできませんでした。

 生徒指導部の教員は、様々な生徒指導に追われて疲弊してました。多くの教員にとっては、どうでもよい事件だったのかもしれません。

この記事を書いた人

アクトイン代表:熊原